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セネガル:医療技術評価(HTA)導入

HIAS Health では2016 年より国際協力機構(JICA)と連携し、西アフリカのセネガル共和国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)事業の定量評価を行ってきた。UHCとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味し、国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」の一つである。

 

セネガルにおけるUHC評価事業では、JICA、セネガル政府および世界銀行との協働により、①セネガルにおけるUHC 政策の中核をなすコミュニティ保険組合のガバナンスや運営能力の調査、さらに②地域住民が医療を受けられているか、また医療費によって家計破綻していないかについて調査を行ってきた。調査を通じて、コミュニティ保険によって給付される医療サービスや薬は依然として限られており、より充実した政策のためにはサービス拡張を行う必要があることが分かった。
限られた予算の中でどのサービスを新規に給付するかについて、医療サービスの費用と効果に基づいて決定するために行う費用対効果評価をはじめとする医療技術評価(Health technology assessment: HTA)の実施が国際的に広がっている。
そこで本事業ではそれを拡張・発展させる形で、コミュニティ保険によって給付する医薬品や医療行為等のパッケージ策定を科学的に行う手段としての医療技術評価(HTA)推進に係る基礎研究を行う。初年度にはセネガル国家医療保障庁幹部等とオンラインでの面談を複数回行い、人材育成や政府内でのHTAの制度化プロセスの構築支援が必要であることが明らかになった。さらに、本研究事業を推進するにあたり国連開発計画等が進めているAccess and Delivery Partnershipとも連携することになった。令和3年度は、セネガルにおけるHTAの適用範囲の検討、さらに新医療技術に対する費用効果分析の検討を同国国家医療保障庁およびタイ保健省と共同で行う。

 

さらにはセネガルにおけるHTA 政策導入プロセスに関して、UHCの枠組みの中での効率的な運用についての検討も行う。
加えて、同国では保険加入率が2018 年時点で30%程度と低いが、これを念頭に、同国ティエス州内の住民(特にインフォーマルセクター)の保険加入を促進するナッジによる介入実験と、そうした行動介入の費用効果評価の計画策定を国家医療保障庁ティエス州支部と議論しながら進める。

タイ:生活習慣病対策のHTA

生活習慣病による死亡数は現在では高所得国だけでなく低中所得国でも最も深刻であり、その予防への公的予算配分の必要性が世界的に高まっている。
生活習慣病対策の中で最も重要な介入の一つとして運動習慣の改善があげられ、各国政府は特に職場等の日常生活における運動習慣付けのための保健介入政策を計画・実施している。

 

本研究ではタイ政府(保健省の各部署)における運動習慣付けのための行動経済学的な介入の費用対効果評価を行う。
具体的には運動習慣に対する金銭的インセンティブの付与、PC ブラウザ上のリマインドによる休憩と運動習慣(体操等)の動機付け、さらに休憩中の運動に関する社会規範の伝達の三つの介入による個人の運動レベル及び労働生産性への効果を測定する。
さらに本介入の費用効果分析を行い、これらの介入の国全体での導入の可否について費用対効果の面からタイ保健省に対して助言を行う。

 

令和2年度には介入実験を開始し、また実験のプロトコルが査読付き専門誌に掲載された。令和3年度は介入を継続し、さらに運動習慣の記録や被験者のバイオマーカー等から介入の効果について中間評価を行う。

タイ・シンガポール・日本:Covid-19ワクチン接種対象の優先順位付けと医療技術評価

新型コロナウィルス感染症の蔓延により、世界的に多数の感染者や死亡者が出ている。
ワクチンの投与は現在考えられる対策のうち最も有効性が高いと考えられるが、一方でワクチンの生産量には限界があり、日本も含めて各国は全ての国民に一斉に接種することができない。

 

したがって死亡者数、急性期ベッド数、経済活動の再開などの複数の要素を考慮しつつ、全国民の中のどのグループに優先的にワクチンを配分するか決める必要がある。この目的に資する科学的エビデンスを提供するため、日本、シンガポール、タイの三か国で連携して、それぞれの国の感染状況等に合わせた疫学・経済モデルを構築し、ワクチンの優先順位付けとHTAについて検討する。
令和3年度には日本における感染モデルを構築し、厚生労働省等が発表する感染情報等の公式データを用いて今後の感染者・重症者・死亡者等を予測する。
その上で、現在明らかになっているワクチンの効能やワクチン接種手続き等を踏まえて、国民を年齢層や基礎疾患の有無によってグループ化し、その上で感染者・重症者・死亡者等を最小化するグループ間のワクチン接種の優先順位をモデルに基づきシミュレートし、その結果を論文にまとめる。
令和3年度と令和4年度にまたがって、セミナー等を通じて日本及びタイ・シンガポールを含む海外政府に向けて研究成果の普及活動を行う。

ASEAN諸国における感染症モニタリング体制の構築

令和2年度に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域における疾病予防管理センター (ASEAN-CDC)の構想がまとまり、SAPPHIREを構成するタイ保健省、シンガポール国立大学、一橋大学、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究者が立ち上げに向けたワーキンググループに参画し、調査を実施し各国政府への助言を行うことになった。

 

令和3年度には、地域内(および日本)の感染モニタリング機能等に関する調査と、地域内における新型コロナウィルス感染症ワクチン接種者に対する「ワクチンパスポート」発行に向けて、各政府の準備状況や実施上の懸念材料等(例えばパスポートの有無が差別につながる)についての基礎調査を進め、ASEAN(プラス日本や韓国)におけるアジア地域内でのパスポート運用にむけた議論を行う。
その議論の成果を政策的学術論文としてまとめる。

ブータン:HTA推進(費用対効果の閾値の定量化)

HIAS Healthはブータン保健省からの依頼により、2019 年秋からHealth Intervention and Technology Assessment Program(HITAP)と共同でブータンにおけるHTA関連研究を行うことになった。
具体的には、ブータン保健省がHTAによる必須医薬品リストの更新を行う際に参照する費用対効果の閾値の定量化について、二つのプロジェクトを進める。
第一の研究では、ブータン保健省が提供する医療・国民健康データを用いてブータンの医療予算や医療提供の実態に合わせた基準を定量的に導出する。
第二の研究では、ブータン国民の医療への需要を推定するため、全国調査によって各家計の健康寿命への支払い用意額を推定する。

 

具体的には、ブータン政府が行う全国家計調査に関連する質問項目を追加する。
得られた回答を基にデータを分析し、推定された支払い用意額を使って費用対効果の閾値を導出する。
本事業の計画策定のため、2019 年7 月にJICA 調査団としてブータン保健省を訪問し、保健大臣をはじめ政府関係者との議論をおこなった。
さらに令和2年度にブータン保健省及びブータン医科大学と定期的にオンライン会議を続けてきた。

 

令和3年度は保健省及びブータン医科大学と共同で引き続き二つの研究を進める。第一の研究では、ブータン政府データの収集をオンラインによる現地研究者・政府担当者と交渉を続けデータの確保に努める。
データの収集が済み次第、すでに作成済みの研究実施プロトコルに基づいて分析を行い、結果を保健省と共有して議論する中で論文にまとめる。
第二の研究では、研究プロトコル及び家計調査への追加質問票を作成する。
家計調査の調査員訓練に向けた準備も同時に行う。令和3年度終了までにデータ収集を行い、データの分析に取り掛かることを目標とする。
その後の予定として、令和4年度にブータン保健省におけるワークショップを開催し、研究成果の普及に努める。

研究拠点形成事業Bアジア・アフリカ学術基盤形成型