HIAS Health 研究員の荒井耕教授(一橋大学大学院経営管理研究科 教授)の研究報告書「病院経営医療法人における資産の有効活用度の実態 ―多角経営類型別の資産利用の効率性分析―」 が一橋大学機関リポジトリに公開されました。
 
本研究報告書の全文は、下記のサイトからダウンロードいただけます。
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/29768/  (一橋大学機関レポジトリ)
 
研究報告書概要
本研究のポイント・病院経営医療法人を対象に、事業報告書等を活用して、投入資産の有効活用状況を多角経営類型に着目しつつ詳細に分析した。
・効率的で質の高い地域医療を実現する上で重要となる、地域医療の担い手である病院経営医療法人の資産利用効率性の把握のためには、既存の公的調査では不十分であり、事業報告書等を活用した財務情報基盤の整備が必要であることを示唆した。
 研究の背景効率的で質の高い地域医療を実現・維持していくためには、地域医療の主たる担い手である病院経営医療法人の資産利用の効率性を把握し、資産の有効活用度を高めるように働きかける必要がある。しかしながら、従来、病院経営医療法人の投入資産の利用効率性を把握・分析のための整備された財務情報基盤はなく、中央社会保険医療協議会の『医療経済実態調査』や厚生労働省医政局の『病院経営管理指標』などの既存の公的調査では十分に明らかにされてこなかった。
 研究内容・成果医療法人が毎期提出する事業報告書等を活用して、資産利用の効率性の実態を詳細に明らかにした。具体的には、以下のような成果が得られた。
  1. 既存の公的調査では分析されていない多角経営類型の観点から分析し、多角経営類型間で資産回転率が有意に異なることを発見し、またその背景要因を分析・考察した。
  2. 既に明らかにした多角経営類型による売上高事業利益率の有意差に加えて、資産の利用効率の影響も受ける、総資産事業利益率(投入資産額との兼ね合いにおける損益額の割合)にも、多角経営類型間で有意な差があることを明らかにした。
  3. 既存の公的調査でも分析されている病床種類類型別の資産回転率の差についても、多角経営類型ごとに分析すると少しずつ状況が異なることを明らかにし、今後の調査研究におけるこの観点からの分析の重要性を示した。
  4. 病床種類類型別については、売上高事業利益率と資産回転率の両者の影響を受ける総資産事業利益率の差も検証したところ、売上高利益率(一般型が一番悪い)と資産効率(一般型が一番良い)が相殺しあい、有意差は確認されないことが判明した。
  5. 資産の利用効率性には、法人の資産規模や設立後経過年数も関係しており、規模が大きいほど、経過年数が長いほど、資産回転率が低下することを明らかにし、各種類型間の資産利用効率比較では、規模や設立後経過年数の統制が必要なことを示唆した。
  6. 既存の公的調査では分析されていない、財団・社団持分無し・社団持分有りの間などの各種法人区分の各法形態間で資産回転率に有意な差があること、またその違いは多角経営類型ごとに少しずつ状況が異なることを明らかにした。
  7. 既存調査では適切に分析できない都道府県別の実態を分析し、総資産回転率にも固定資産回転率にも有意な差があることを発見し、都道府県ごとに資産の有効活用状況に大きな違いがあることが判明した。効率的な地域医療の実現に向けて、都道府県ごとにきめ細かに資産の利用効率の実態を把握することの重要性が示唆された。
  8. 全法人が提出する事業報告書等を活用することで、客体数の少なさによる分析結果の信頼性の限界、任意回答であるがゆえの回答バイアスの可能性の存在、任意回答で低回収率であるがゆえの経年比較の困難性、といった既存の公的調査における諸課題を適切に克服し、既存調査を補完できることを示した。
 研究報告書ダウンロードhttp://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/29768 (一橋大学機関リポジトリ)
 お問合せ先 一橋大学 大学院経営管理研究科 兼 社会科学高等研究院
教授 荒井 耕(あらい こう)
E-mail: ko.arai@r.hit-u.ac.jp
 
研究報告書の概要PDFはこちらからダウンロードいただけます。