HIAS Health 研究員の荒井耕教授(一橋大学大学院経営管理研究科 教授)の研究報告書「病院経営医療法人の財務的な健全性に関する実態分析 : 多角経営類型に着目して」 が一橋大学機関リポジトリに公開されました。
 
本研究報告書の全文は、下記のサイトからダウンロードいただけます。
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/29569  (一橋大学機関レポジトリ)
 
研究報告書概要
本研究のポイント・地域医療で中心的な役割を担っている病院経営医療法人を対象に、事業報告書等を活用して、財務健全性の実態を多角経営類型に着目しつつ詳細に分析した。
・公的調査で従来十分把握されていない財務健全性の実態を分析提示することで、経営安定性も考慮して政策意思決定する際に重要となる財務情報基盤の整備の必要性を示唆した。
 研究の背景地域医療の持続可能性を確保するためには、地域医療の担い手である医療機関の財務健全性を把握し、診療報酬政策などにおいて考慮する必要がある。しかしながら、診療報酬改定を担う中央社会保険医療協議会は、『医療経済実態調査』を通じて各年度の損益実態の把握は一定程度してきたが、過去から現在に至るまでの結果としての財務的健全性の実態は把握していない。また厚生労働省医政局の調査(『病院経営管理指標』)では、病院施設を対象に自己資本比率などの財務的安定性に関する指標の把握がなされているものの、限定された客体数などの限界があるほか、分析の観点などにも拡張の余地がある。
 研究内容・成果 医療法人が毎期提出する事業報告書等を活用して、財務健全性の実態を詳細に明らかにした。具体的には、以下のような成果が得られた。
① 全法人が提出する事業報告書等を活用することで、客体数の少なさによる分析結果の信頼性の限界、低い回収率であることによる回答バイアスの可能性の存在、任意回答で低回収率であるがゆえの経年比較の困難性、といった既存の公的調査における諸課題を適切に克服し、既存調査を補完できることを示した。
② 既存の公的調査では分析されていない多角経営類型の観点から分析し、多角経営類型間で自己資本比率や債務超過法人割合が有意に異なることを発見した。しかも3年度にわたって分析し、その実態の経年的な推移も含めて明らかにした。
③ 既存の公的調査でも分析されている法人規模別、地域ブロック別、病床種類類型別の自己資本比率の差についても、多角経営類型ごとに分析することにより、多角経営類型ごとに少しずつ状況が異なることを明らかにし、今後の調査研究におけるこの観点からの分析の重要性を示した。
④ 既存の公的調査では分析されてこなかった観点、具体的には、財団・社団持分無し・社団持分有りの間、社会医療法人・出資額限度法人・特定医療法人・その他の法人の間、基金制度採用・不採用の間に、自己資本比率でも債務超過法人割合でも有意な差があることを明らかにした。また各種法人区分の各法形態間の違いを多角経営類型ごとにも分析し、多角経営類型ごとに少しずつ状況が異なることも明らかにした。
⑤ 既存の公的調査では分析されてこなかった都道府県別の実態を分析し、自己資本比率にも債務超過法人割合にも、都道府県により有意な差があることを発見した。都道府県別にきめ細かに財務健全性の実態を把握することの重要性が示唆された。
⑥ 既存の公的調査ではなされてこなかった財務健全性が極めて悪い状況の法人に着目した債務超過法人割合による分析も試みた。その結果、多角経営類型別や都道府県別など本研究で分析対象としたすべての観点において、債務超過法人割合は対象群間で有意な差が確認され、今後の調査研究でも分析価値の高い指標であることが判明した。
⑦ 財務健全性の実態には法人設立後の経過年数も影響を与えていることを明らかにし、各種の類型間の健全性比較では設立後経過年数の統制が必要であることを示唆した。
 研究報告書ダウンロード http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/29569 (一橋大学機関リポジトリ)
 お問合せ先 一橋大学 大学院経営管理研究科 兼 社会科学高等研究院
教授 荒井 耕(あらい こう)
E-mail: ko.arai@r.hit-u.ac.jp
 
研究報告書の概要PDFはこちらからダウンロードいただけます。